Daisuke Nishijima
読者のみなさんへ(『世界の終わりの魔法使い』より)

 この作品の下書きを終えたとき、まだ登場人物たちに名前はありませんでした。単に「魔法使い」とか「魔法っ娘」とか、とりあえずそんな風に呼んでいたわけです。ペン入れを進めている最中も、相変わらずそんな状態で、さすがにそろそろ何かふさわしい名前を考えなくちゃと思っていた時、ふと目に入ったのがエリナー・ファージョンの三冊目の作品集『ムギと王さま』(石井桃子訳/岩波書店刊)でした。

 本作の主人公、顔半分に包帯をした魔法使いの少女「サン・フェアリー・アン」は『ムギと王さま』に収録されているファージョンの小説「サン・フェアリー・アン」から取られています。ファージョンの物語に出てくるサン・フェアリー・アンは池に捨てられた人形の名前。持ち主の手を離れた人形は、戦争を跨いで長い旅をします。

 同作品集の註釈によると「サン・フェアリー・アン――第一次大戦の終わりごろから、イギリス軍のあいだで使われだした俗語。フランス語の“Ca ne fait rien”から出て、「どうでもいいさ」といういみにつかわれた」とのこと。『世界の終わりの魔法使い』の主人公の名前を「サン・フェアリー・アン」にしたのは、ファージョンの物語がとても印象深かったこともありますが、実はこの註釈内の「どうでもいいさ」という一言も決め手でした。

これは勝手な解釈かもしれませんが、「どうでもいいさ」というのは、すでに出来上がった世界に対するある種の犯行の言葉のようにも聞こえます。反抗的で、やんちゃで、優しい言葉。フランス語も英語もさっぱりな僕ですが“Ca ne fait rien”という聞き慣れない不思議な言葉に、作品のテーマを重ね合わせてみたわけです。

西島大介

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